体罰の思い出。
私は、中学に入学した当時、既に身長が160cmを超えていた。
入学後すぐの体育の授業で、女子バスケットボール部顧問だった体育教師K子に「バスケをやらないか?」と勧誘された。
出来れば運動部に入りたいと思っていたので、まずは様子を見ようと、仮入部することにした。
仮入部初日。ボールに触ることは1度もなく、ひたすら腹筋や腕て立伏せなど、基礎運動をさせられた。とても疲れた。
だが、まあそれはいい。最初なんてそんなもんだ。
それよりも辛かったのは、部活の時間中、K子が休みなく、部員の頬を平手打ちしたり、足を蹴ったりし続けるのを見せられたことだった。
ゴールを外したら、呼びつけて、殴る、蹴る。
気合が足りないと言って、呼びつけて、殴る、蹴る。
生徒たちは「はい!」「すみません!」と直立不動で答え、コートへ戻って行く。
体罰を見るのは初めてではなかった。小学校の頃には、自分自身も教師から小突かれたり、叩かれたりした。
体罰に対して、世間の目が厳しくない時代だった。
それでも。
殴られるのを分かっていて入部するなんて嫌だった。 出来なかった。
K子からはその後、何度か勧誘されたが、愛想笑いでごまかしながら断り続けた。
そして、顧問がほとんど顔を出さないダンス部に入って、楽しく3年間の放課後を過ごした。
卒業後、バスケ部だった同級生と再会してこの話になった時、彼女は、「おかげで横のつながりは強かったよ。仲間意識が芽生えたっていうか。おのれ!K子め!って感じで。」
と言って笑った。
実際、K子に鍛えらえた女子バスケットボール部は試合成績が良く、高校にスポーツ推薦で入学する生徒もいた。
しかし、K子のやり方は、やがて通用しなくなった。
私の年代が卒業してから数年後、反発した部員たちが一斉に退部するという事件が起きたのだ。
保護者からも突き上げられ、K子は学校に出て来られなくなったらしい。そして、他校へ転勤していったと聞く。
理論とか、科学的根拠とか、一人一人の能力を見るだとか、そんなものは考えたこともなく、ひたすら軍隊のごとく扱くだけだったK子。
反発を受けるなんて想像もしなかったのではないだろうか。
彼女は彼女なりに「熱心に」指導していたのだろうから。
頭は使わず、だけど。
私は今でもバスケ部に入らなくて正解だったと思っている。
でも、もし選べない環境だったら一体どうなっていただろう?
選択の自由があって本当に良かった。
選択する意思を貫けて本当に良かった。